松田聖子ちゃんの思い出

コンサート 日常

思い出の川越文化会館

しばらく忙しい日々が続いて、ブログの更新ができませんでした。

今回は少し長い内容で、お店の業務に関係のない内容ですので、お時間のある方だけに向けて若き日の思い出を書いてみようと思います。

それは私がまだ19歳の頃でした。

私は高校を卒業し、九州から上京し働いておりました。

埼玉県の川越市に職場と男子寮があり、生まれて初めて「ハンバーガー」という食べ物を口にした年でした。

二十歳前の男子が集まって生活する(寮)ということは、当たり前ですが政治や経済、または日本の行く末について忌憚なき意見を戦わせるようなことは無く、もっぱらTVの中のアイドルについて・・・

「俺は絶対、早見優ちゃん派だわ。それ以外は絶対認めねーんだわ。」

などというような不毛な内容の会話ばかりしていました。

当然、コンサートなどというものに行ったこともない田舎者の私は、TVの前でキラキラした芸能界を観覧するのが精いっぱいの楽しみでした。

しかし友人たちは違ったのです。

原宿に行って「竹の子族」を見物したり、アイドルの生写真(ブロマイドではない写真)を竹下通りなどで買い求めていたりしたのです。

なんという、不良少年的行為なのでしょう。

私が高校生の時は喫茶店にいただけでも、生活指導の先生に見つかると坊主にさせられていたのに・・・。

そんな中、ある日のこと、友人の一人が「コンサートのチケットが4枚買えたんだけど誰か行かないか?」と探していました。

そのコンサートは誰あろう・・・

「松田聖子ちゃん」でありました。

しかもしかも・・・

舞台から見て中央右寄りの、最前列 の4席がまとめて取れてしまったことが判明しました。

私は、俺少し貧血かな?と感じるほど感動し、是非そのチケットを買わせて戴きたい旨を強く伝えました。

友人は海のような広い心と優しい眼で・・・

「定価でいいよ」

と言ってくれたのでした。

やはり健全に生きていれば報われる日は必ずやってくるという神話は本当だったんだ、などと感動し、私はコンサート当日を迎えるのでした。

当日

私は寮の最寄りの駅である東武東上線の「新河岸駅」から電車に乗り、隣の「川越駅」に降り立ちました。

コンサートは「川越文化会館」で行われるのでした。

確か夕方から始まるコンサートに昼頃から出かけ、食事を済ませた私達4人は、どうにも時間をもてあましていました。

そんな時、友人の一人が、「パチンコでもして時間を潰そうか」と言い出しました。

一同、簡単な拍手でその意見を採用し、めでたく我々4人はパチンコ屋さんに吸い込まれました。

実は私は、コンサートのチケットは持っているものの、次のお給料日までの金銭的余力が非常に厳しいものであることを忘れておりました。

まああと一週間、1万円弱あるからなんとかなるだろう・・・そう思っていました。

ところがそのパチンコ屋さんで負けに負け、残金は870円になってしまったのです。

なんという運命の悪戯なのでしょう。

私は一週間を870円で乗り切らなくてはならない状況になってしまいました。

聖子ちゃんのコンサートの直前に殆どの生活費が消えてしまい、私はすっかり精神的に立ち上がれなくなってしまったのです。

そしてそれは全て自分が背負わなくてはならない(当たり前です)いばらの一週間でした。

私達4人文化会館に到着すると、会場の入り口で、ポキッと折ると光始める棒状の簡易ライトをそれぞれ手渡され、席に着きました。

席は本当に「最前列」でした。

つまり聖子ちゃんが目の前に現れるのです。

会場内は異様な興奮で包まれ、誰もかれも皆、思い思いの心構えでその時を迎える準備をしていました。

場内は次第に暗くなります。

私たちの真向かいには、警備の人であろうイカツ眼のお兄さん達が沢山いて(最前列の為)、興奮した我々が万が一にも舞台に上がったりしないように眼光鋭くこちらを睨んでいました。

あの方たちはフトドキ者の顔面に、何の躊躇いもなくグーパンチできるような強面の方々でした。

コンサート

それは遂に始まりました。

素晴らしい演奏とともに美しくて可愛くて、抜群に歌唱力が素晴らしい女の子が、これでもかという素敵で華やかな衣装を身にまとい現れました。

松田聖子ちゃんでした。

あの時代のアイドルの方は沢山いらっしゃいましたが、歌の上手さでは聖子ちゃんを超える人はいなかったと、今も思っています。

聖子ちゃんの素晴らしい歌声。

耳では聞こえていました。・・・しかし心では聞こえていませんでした。

870円という現実が、あまりにも暗い影で私の心を覆っていたのです。

私はコンサートが始まっても、立ち上がれませんでした。

そんなときです。

確か3曲目でしたでしょうか。

微かな記憶では、青い珊瑚礁だったように思います。

聖子ちゃん

その時、870円しか持っていない私の前に、なにもかも持っている聖子ちゃんが笑顔で立っていました。

「青い珊瑚礁」

♪ あ~私の恋は~、南のぉ~風に乗って走ぃるわ~ 

聖子ちゃん心の声( おい青年?なんで最前列で座ってるの? )

♪ あ~青っい風~、切ぃっって走れ、あの島へ~  

聖子ちゃん心の声( 周りを観てごらんなさい。全員立ってペンライト振ってるでしょ。あなたも振んなさい )

♪ あな~たと~、逢う度ぃに~ 、全ぇてを~忘れてし~まうの~ 

聖子ちゃん心の声( 私は松田聖子ちゃんなのよ、黒柳徹子さんや久米宏さんとも楽しくお話しできるスターなのよ。)

♪ はしゃいだ~、私は Little girl ~、熱い胸、聴こえるでしょう~ 

聖子ちゃん心の声( 最前列で座ったまま俯(うつむ)いているなんて・・・あなたもしかして・・・馬鹿なの?。…  )

♪ 素っ肌に~、キラキラっ珊~瑚礁~、二人っきりで~流されてもいいの~ 

聖子ちゃん心の声( 後ろの隅っこならまだしも、最前列でコラコラ。・・・私は、聖子ちゃんなんだぞ!・・・聖子ちゃんが目の前で歌ってんだぞ!!! )

♪ あなたが好き!! ♪

聖子ちゃん心の声( 元気出せ、青年! )

我に返る

はっとしました。

なんと松田聖子ちゃんは落ち込んで座ったままの私の前で、切々と勇気を与える女神のように唄ってくれたのです。

私ははっとして、会場全体を見渡しました。

私以外のすべての人が、立ち上がりペンライトを振り、聖子ちゃんの歌に酔いしれていました。

そのとき、私が本当に思ったことは・・・

「聖子ちゃんに迷惑かけてる!!!」

ということでした。

「ごめんなさい、聖子ちゃん。私が間違っておりました。どんなに生活費が少なくなっても、今こうして聖子ちゃんの歌を目の前で観れる幸せに集中すべきでした」

「最前列なのにずっと座っていてごめんなさい。でももう大丈夫です。私は立ち上がり、蛍光ペンを振ります」

「一週間ぐらいなんてことないです。寮の近くのサミットストアで格安の食パンと雪印のコーヒー牛乳を買えば済むことです」

その後、私はとても幸せな気持ちでコンサートを楽しみました。

私が立ち上がると聖子ちゃんは私の前を離れ、再び舞台の中央付近ですべての観客を魅了していました。

本当の「歌姫」とはこの人のことなんだと、私は思いました。

帰り道

4人全員が、同じことを口々に言いました。

「聖子ちゃん、俺だけの為に暫く間、唄ってくれたんだー(泣)」

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