ガーベラ 日常

むかしむかし・・・

こんなことばかり書いて、いったい誰が得をするんだと叱られてしまいそうですが、一部の方がどうも応援してくださっていることを知り、今回も徒然なるままに書いてみようと思います。

それは私が小学校低学年の頃のお話です。

九州の田舎で私は片道2Kmほどの道を徒歩で通学しておりました。

いつものように県道をランドセルを背負いながら猫背で歩いていたのですが、不意に今日は農道を歩いて帰ろうと思い立ちました。

農道では途中に小さな川を渡ることになるのですが、そこには軽トラックがギリギリ通れるほど簡単な橋(コンクリート製)が架かっておりました。

橋の手前で、私は何気なく川下の方に眼をやりますと、遠くに綺麗な一凛の朱色の花が河原の砂地に咲いております。

それはそれは美しく、細い茎を風にゆらゆらさせながら微笑んでいるように見えました。

私はとてもとても気になり、橋の手前から河原に降りて花まで十数メートルを歩きました。

近づいて見ると「ガーベラ」のような花でしたが、その頃の私は「ガーベラ」という花の名前すら知りませんでした。

白くて粒の小さい砂地の地面から、その花は細い細い茎をまっすぐ立ち上がるように伸ばし、背丈はその頃の私の胸程まであったと記憶しています。

また緑色の葉は、頼りなげな数が数枚、左右に伸びていました。

近づいてみればみるほど朱色の花の美しさは格別であり、小学生の私の心をすっかり虜にしてしまったのでした。

思いつく

私は走って自宅へ帰り、小さな錆びたスコップとビニール袋を手に取り、また走って河原に引き返しました。

おうちの庭で咲いてほしい。

そう思ったのでした。

私は花の根を傷つけないように注意しながらスコップを周りの土に入れました。
根の塊と、河原の土とを一緒にビニール袋に入れると、私は急いで持ち帰り、自宅の玄関横の土を掘り返し、そっと植えたのでした。

もうそれはそれは嬉しくて、しっかり根が育つようにと水を沢山かけました。

こちらの使用させて頂いたイラストと違い、花は私の胸の高さまでありました。

水をあげてしばらくの間、私はそこに立っていました。花は相変わらずキラキラ咲いています。

夕焼けの記憶はありませんので、まだ3時~4時頃だったと思います。

根が新しい土にも馴染んでくれるかが心配でしたので、しばらくしゃがんで花の傍に座って眺めていました。

「綺麗な花だなぁ・・・」

その日の感想は、ただそれだけでした。

翌朝。

次の日の朝、花に挨拶して水をあげたあと、私は学校へ行きました。

・・・・・・・・。

それから数時間後。

学校から帰ってくると、花は元気を無くし、うなだれていました。

陽に当たる場所がいけなかったのだろうかとも思いましたが、河原ではとても日当たりが良い所に咲いていたので、そうではないような気がします。

土が合わなかったのかとも思い、ちょっと可哀そうな気持ちもしましたが、私はどうしてもその花と一緒に暮らしたいと思ったのでした。

水は足りているようでしたし、また、やりすぎは良くないと父に教わっていました。

私は、花に歌を聴かせれば元気が出るかもしれないと思い、知っている中で一番この花に合っていそうな歌を唄いました。

♪ 薔~薇が咲いた、 薔~薇が咲いた、 真っ赤な 薔~薇~が~ ♪

♪ 淋~しかった、ぼ~くの庭~に、 薔~薇が咲いた ♪

( 目の前の花が薔薇でないことは、その頃の私も理解していました。)

♪ たったひと~つ咲~いた薔~薇、小さな 薔~薇~で~ ♪

♪  淋~しかった、ぼ~くの庭~が、明るくな~った~ ♪

♪ 薔~薇よ~ 薔~薇よ~、小さな~ 薔~薇~ ♪

♪ いつまで~も~、そこに咲いててお~く~れ~ ♪

♪ 薔~薇が咲いた、 薔~薇が咲いた、 真っ赤な 薔~薇~が~ ♪

♪ 淋~しかった、ぼ~くの庭~が、 明るくな~った~ ♪

誰が歌っていたのかをその当時は知りませんでしたが、マイク眞木さんが歌っておられたのですね。

とにかくテレビから沢山流れておりましたので、自然と歌えるようになっていました。

一番しか知りませんので、2回目も同じように一番を唄いました。

その後、母に頼まれた用事を済ませて戻ってみると(30分後くらいでしょうか)、なんと花が昨日のように元気になっていました。

私は嬉しくなり細かく覚えていませんが、花に沢山何かを話していました。

花は聞こえている、言葉がわかる、私の歌で元気が出たんだ と、その時、本当にそう思いました。

植物だって自分たちと同じなんだ! そう思って、花の傍にしばらく座って過ごしました。

翌朝。

次の日の朝、昨日のように花に挨拶して水をあげたあと、私は学校へ行きました。

・・・・・・・・。

それから数時間後。

学校から帰ってくると、また花は元気を無くし、うなだれていました。

私は昨日と同じように「バラが咲いた」を2回、唄いました。

・・・・・・・・。

30分後、再び花は元気を取り戻しました。

もうこれは絶対にそうなんだ。この花は私の歌がきっと好きで、唄ってあげればずっと元気に咲き続けてくれるんだ、と、深く信じたのでした。

翌朝

またまた次の日の朝、昨日のように花に挨拶して水をあげたあと、私は学校へ行きました。

・・・・・・・・。

それから数時間後。

その日は友達と学校で遊んでいて、帰りは夕方になってしまいました。

空が茜色にゆっくりと染まる中、学校から帰ってくると、また花は元気を無くし、うなだれていました。

私はまた「バラが咲いた」を、2回唄いました。

そして30分後、しかし花は昨日までとは違い、元気なくうなだれたままなのでした。

私は慌てて、もう一度「バラが咲いた」を2回唄い、今度はその場を離れませんでした。

しかし花はもう輝くような美しさを私に見せてくれなくなってしまいました。

「枯れてしまう」

そう、私ははっきり理解しました。

私が河原で楽しそうに咲いていた花を自宅に持ってきてしまったばかりに、この花の命を奪ってしまったのかもしれない。

そう思うと涙が出ました。

私はスコップとビニール袋を持ってきて花を掘り返すと、暗くなってもいいように懐中電灯を持って出かけました。

目的地は河原でした。

咲いていた場所はしっかり覚えていました。

私はその場所に立ち、花に「ごめんね、ごめんね」と謝りながら、もとの砂地に戻しました。

川からビニール袋で水を掬うと、花の根元にかけてあげました。

もう夕方で薄闇が広がっていましたが、花は相変わらずうなだれていて元気がないのは解りました。

帰りは懐中電灯をつけて帰りました。

翌朝。

私は学校に行きました。

・・・・・・・・・・。

授業が終わり、私は学校の帰りに農道を通って、川の橋の手前で花の方を見ました。

花は、まるで何事もなかったかのように、最初に見たままの美しさでキラキラと咲いて笑っていました。

風に揺れてこちらに顔を向けて、まるで何かを私に話しかけているようです。

私は最高にうれしくなり「ばんざーい」と手をあげましたが、花の近くに行くことはしませんでした。

私は、もう持って帰ったりしないから・・・。

そう思いました。

 やはり野に咲け、僕の花 」

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